
自営業と経営者の違い|制度の差と社長依存を抜ける5ステップ
「会社を立ち上げたのに、やっていることは自営業の頃と変わらない」。そんなお困りごとを抱える社長は少なくありません。
自営業と経営者の違いは、「働き方の区分」と「役割」の2軸で分かれます。自営業とは、会社に雇われず、自分で事業を営む働き方のことです。経営者とは、事業の方針を決め、人と仕組みを動かす役割を指します。
法人の社長でも、売上の大半を自分で取っているなら、営業の面では自営業と同じ状態です。制度上の差は、税金・社会保険・責任の範囲などに表れます。
本記事では、両者の違いを早見表で比べたうえで、営業の視点から見た本当の差を解説します。後半では、社長依存の営業を組織の仕組みに移す5ステップも紹介します。自社の営業を「組織の財産」に変えるきっかけになれば幸いです。
INDEX≡目次
- 1結論|自営業と経営者の違いは「働き方の区分」と「役割」の2軸で分かれる
- ►自営業とは:会社に雇われず自分で事業を営む働き方
- ►経営者とは:事業の方針を決め、人と仕組みを動かす役割
- ►個人事業主・フリーランス・社長(法人代表)との関係
- 2早見表|自営業(個人事業主)と法人経営者の制度上の違い
- ►比較表:税金・社会保険・責任範囲・手続き
- ►税金の違い:所得税の累進課税と法人税
- ►社会保険の違い:国民健康保険・国民年金と健康保険・厚生年金
- ►責任と信用の違い:無限責任と有限責任
- 3営業から見た本当の違い|自営業は「自分が売る」、経営者は「売れる仕組みをつくる」
- ►自営業の営業は本人の稼働時間が売上の上限になる
- ►経営者の営業は「誰がやっても再現できる型」が資産になる
- ►職人・マネージャー・起業家:3つの役割で自社を点検する
- 4法人でも「自営業型」のままの会社に出る3つのサイン
- ►売上の増減が社長の稼働時間と連動している
- ►主要顧客が「社長だから買っている」状態になっている
- ►社員に営業を任せても成果がばらつき、再現しない
- ►チェックリスト:自社の営業は自営業型のままか
- 5社長依存の営業を組織の仕組みに変える5ステップ
- ►ステップ1:社長の営業プロセスを書き出す
- ►ステップ2:顧客情報を社長の頭から共有台帳へ移す
- ►ステップ3:ヒアリング項目と提案の型をそろえる
- ►ステップ4:社長の担当顧客を段階的に引き継ぐ
- ►ステップ5:週1回の数字確認で仕組みを回し続ける
- ►想定例:営業担当3名の会社で半年かけて進める場合
- 6自営業から法人化(法人成り)を考えるタイミング
- ►法人化を検討する主な目安:所得・取引先・採用
- ►法人化しても営業の仕組みがなければ自営業型のまま
- 7まとめ|経営者の仕事は「売れる仕組み」を組織の財産にすること
- 8よくある質問
- ►Q1. 法人の社長は自営業にあたりますか?
- ►Q2. 個人事業主と自営業は同じ意味ですか?
- ►Q3. 個人事業主でも経営者と名乗ってよいですか?
- ►Q4. 社長が営業から離れると売上が落ちませんか?
- ►Q5. 従業員が数名でも営業の仕組み化は必要ですか?
結論|自営業と経営者の違いは「働き方の区分」と「役割」の2軸で分かれる
自営業は、雇われずに自分で事業を営む「働き方の区分」です。経営者は、事業の方針を決めて人と仕組みを動かす「役割」です。2つは比べる軸が違うため、「法人の社長だが働き方は自営業に近い」という状態も生まれます。
まずは、自営業と経営者の関係を図で押さえておきましょう。
出典:総務省統計局「労働力調査の解説」をもとに編集部作成
自営業とは:会社に雇われず自分で事業を営む働き方
自営業とは、会社などに雇われず、自分の責任で事業を営む働き方のことです。例えば、個人商店の店主、開業医、個人で活動するデザイナーなどが該当します。
労働力調査では、自営業主を「個人経営の事業を営んでいる者」と定めています。同じ商店でも、法人の形なら店主は役員として扱われます(総務省統計局「労働力調査の解説」)。
つまり、自営業かどうかは「法人か個人か」で決まる面が大きいと言えます。言葉としての自営業は、雇われずに働く人を広く指す日常語としても使われています。
経営者とは:事業の方針を決め、人と仕組みを動かす役割
経営者とは、事業の方向性を決め、人・お金・仕組みを動かして成果を出す役割のことです。例えば、どの顧客に何を売るかを決め、その実行を社員に任せられる体制をつくる人が経営者です。
経営者という言葉には、法律上の厳密な定義はありません。法人の代表取締役を指すことが多い一方、人を雇って事業を回す個人事業主も経営者と呼ばれます。
ここで押さえたいのは、経営者は「肩書き」ではなく「仕事の中身」で決まるという点です。社長の名刺を持っていても、毎日自分で現場に立ち続けているなら、仕事の中身は自営業と変わりません。
個人事業主・フリーランス・社長(法人代表)との関係
似た言葉が多いため、関係をそろえておきます。個人事業主とは、法人をつくらず個人で事業を営む人の税務上の呼び方です。税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を出して事業を始めます(国税庁)。
フリーランスは、組織に属さず仕事を請け負う働き方を指す言葉です。税務上は個人事業主であることが多く、法人をつくって活動する人もいます。
社長(法人代表)は、会社の代表者です。統計上は自営業主ではなく、役員として雇用者に数えられます。
早見表|自営業(個人事業主)と法人経営者の制度上の違い
制度上の違いは、個人で事業をするか、法人をつくるかで生まれます。主な差は、税金・社会保険・責任の範囲・開業の手続きの4点です。細かな条件は年度ごとに変わるため、判断の前に税理士や年金事務所で確認してください。
自営業と経営者の制度の差は、営業組織づくりとも無関係ではありません。例えば、社員を雇って営業チームを持つ段階では、社会保険の加入が採用の前提条件として問われます。大手企業と取引する場面では、法人格の有無が商談の入り口を左右します。法人格とは、会社が個人とは別に契約や財産の持ち主になれる資格のことです。例えば、会社名義で銀行口座を開いたり、契約書を結んだりできます。
以下では、まず4つの観点を表で比べ、その後に税金・社会保険・責任の順で補足しましょう。数字は国税庁と日本年金機構の公式データで、2026年10月に確認した内容です。
比較表:税金・社会保険・責任範囲・手続き
4つの観点を、1つの表にまとめました。
| 観点 | 自営業(個人事業主) | 法人経営者(社長) | 出典 |
|---|---|---|---|
| 税金 | 事業の利益に所得税。税率は5%〜45%の7段階の累進課税 | 会社の利益に法人税。社長本人は役員報酬に所得税 | 国税庁 No.2260/No.5759 |
| 社会保険 | 本人は国民健康保険・国民年金。常時5人以上の法定業種は従業員が健康保険・厚生年金の対象 | 従業員がいなくても健康保険・厚生年金の適用事業所 | 日本年金機構 |
| 責任の範囲 | 事業の借入れなどは個人が全額負う(無限責任) | 株式会社の株主は出資額まで(有限責任)。社長の個人保証には注意 | 会社法第104条 |
| 始め方 | 税務署へ開業届を出せば始められる | 定款の作成や設立登記が必要 | 国税庁 |
表の中で、営業組織づくりに直結するのは社会保険と責任の範囲です。人を雇って組織で売る段階に進むと、どちらも経営判断の前提として効いてきます。
税金の違い:所得税の累進課税と法人税
個人事業主の利益には所得税がかかります。所得税は累進課税です。累進課税とは、所得が増えるほど高い税率がかかる仕組みのことです。例えば、所得のうち一定額を超えた部分にだけ、1段階高い税率が適用されます。税率は5%から45%までの7段階に分かれています(国税庁 No.2260・令和8年4月1日現在)。
一方、法人の利益に課されるのは法人税です。資本金1億円以下の法人の場合、税率は2段階です。年800万円以下の所得に15%、超える部分に23.2%が基本です(国税庁 No.5759・2026年10月確認)。
ほかに住民税や事業税もかかるため、実際の負担は個別の試算で確かめます。
個人と法人の税率の仕組みの違いを、図で比べます。
出典:国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」・No.5759「法人税の税率」(2026年10月確認)
利益が大きくなるほど、個人と法人の税負担の差は開きやすくなります。ただし、法人化で節税できるかは社会保険料や事務費も含めて判断します。
社会保険の違い:国民健康保険・国民年金と健康保険・厚生年金
個人事業主本人は、国民健康保険と国民年金に加入します。従業員を雇うと、加入の義務が生じる場合があります。常時5人以上かつ法律で定めた業種なら、強制適用です(日本年金機構「適用事業所と被保険者」・2026年10月確認)。
法人の事業所は、従業員がいなくても健康保険・厚生年金の適用事業所です。適用事業所とは、健康保険と厚生年金への加入が法律で決められた事業所のことです。
社長1人の会社でも、役員報酬を受け取っていれば原則として加入します。役員報酬とは、会社が社長などの役員に支払う給与のことです。例えば、毎月決まった額を社長個人の口座へ振り込む形が一般的です。保険料は会社と本人で折半するため、法人化すると会社側の負担が生まれます。
社員を採用して営業チームを持つ段階では、手厚い保障が採用の安心材料としても働きます。社会保険は「コスト」と「人材確保」の両面で見る項目です。
責任と信用の違い:無限責任と有限責任
個人事業主は、事業の借入れや取引上の債務を個人ですべて負います。これを無限責任と呼びます。例えば、取引先への支払いが滞れば、個人の預金や財産で返さなければなりません。
株式会社の株主の責任は、出資した額までに限られます(会社法第104条)。これを有限責任と言います。
有限責任とは、会社が借金を返せなくなっても、株主は出資した額以上を負わない仕組みのことです。ただし、中小企業では社長が会社の借入れに個人保証を付ける例が多く見られます。個人保証とは、会社が返せない借金を社長個人が代わりに返すと約束することです。例えば、銀行融資の契約で社長が連帯保証人になる形がこれにあたり、責任が軽くなるとは限りません。
信用の面では、法人であることを取引の条件にする企業もあります。新規開拓で大手企業と取引したい場合、法人格は営業上の入り口の1つと言えます。
営業から見た本当の違い|自営業は「自分が売る」、経営者は「売れる仕組みをつくる」
営業の面での違いは、売上が「本人の稼働」から生まれるか、「組織の仕組み」から生まれるかです。自営業型は自分が売り、経営者型は自分がいなくても売れる仕組みを残します。法人かどうかは、この差を決めません。
制度の違いは、税理士や行政の窓口に聞けば答えが出ます。一方、営業の違いは自社で決めて動かさない限り、何年たっても変わりません。私たち編集部が取材で出会う会社でも、法人化から長い年月がたって、なお社長1人が売上を支えている例を見かけます。
ここでは、自営業型と経営者型の営業を3つの角度から比べてみましょう。売上の上限、資産として残るもの、社長の時間の使い方の3点です。
両者の営業の違いを、図で比べてみます。
- 新規開拓・商談・受注・フォローを社長がすべて担当
- 顧客情報は社長の頭とスマホの中
- 社長が休むと商談が止まる
- 営業プロセスを文書化し、社員が担当
- 顧客情報は共有台帳で全員が見られる
- 社長は方針決めと重要商談の支援に集中
自営業の営業は本人の稼働時間が売上の上限になる
自営業型の営業では、本人が動いた分だけ売上が立ちます。逆に言えば、本人の稼働時間がそのまま売上の上限です。1日に回れる商談の数には限りがあり、体調を崩せば商談は止まります。
YouTubeで個人事業主の働き方を解説する動画でも、事業の手取りや税負担の厳しさがよく語られています。売上1,000万円規模でも、手元に残るお金は思ったより少ないという指摘です。出典はYouTube動画「売上1000万の残酷な手取り」です。売上を伸ばそうとすると、さらに本人が働くしかありません。
この構造は、法人化しても変わりません。営業を社長1人で抱えている限り、会社の成長は社長の体力と時間に縛られます。
経営者の営業は「誰がやっても再現できる型」が資産になる
経営者型の営業では、売れる手順を「型」として組織に残します。型とは、ヒアリング項目や提案の流れなど、誰がやっても同じ水準で進められる手順のことです。例えば、初回訪問で聞く10項目を決めておけば、新人でも同じ情報を集められます。
型は、社長が現場を離れても残り続けます。新しい社員が入るたびに教え直す手間も省けます。社長の頭の中にある勝ちパターンを、組織の財産に変えることが経営者の営業の仕事です。
ここで大切なのは、型が顧客の役に立つ内容であることです。売り手の都合で押す手順ではなく、顧客の課題を正しく聞き取る手順を型にします。顧客視点の型は、担当者が変わっても信頼を保ちます。
職人・マネージャー・起業家:3つの役割で自社を点検する
自営業と経営者の差を考えるうえで、参考になる考え方を紹介しましょう。マイケル・E・ガーバーの著書『はじめの一歩を踏み出そう』(邦訳・世界文化社)です。同書は、事業を営む人の中に3つの役割があると説明しています。
1つ目は、自分の手で仕事をこなす「職人」。2つ目は、計画を立てて物事を整える「マネージャー」です。3つ目が、将来の姿を描いて仕組みをつくる「起業家」と呼ばれる役割です。
同書は、多くの小さな会社が職人の役割に偏ったまま行き詰まると指摘しています。
営業に当てはめると、職人は「自分で売る人」、マネージャーは「売る手順を整える人」です。起業家は「売れる仕組みを設計する人」と言い換えられます。あなたの1週間のうち、それぞれの役割に何時間を使っているでしょうか。
自社の現状を、3つの役割で点検してみましょう。
出典:マイケル・E・ガーバー『はじめの一歩を踏み出そう』(世界文化社)の3つの人格をもとに編集部作成
法人でも「自営業型」のままの会社に出る3つのサイン
自営業型の営業は、法人の形をとっていても起こります。売上が社長の稼働と連動する、顧客が社長個人に付いている、社員の成果が再現しない。この3つが主なサインです。
私たち編集部は、従業員10〜100名規模の経営者に営業の話をうかがう機会を多くいただいています。その中でも、この3つのサインは繰り返し耳にします。自社に当てはまるかを確かめてみてください。
3つのサインは、どれも社長個人の能力が高い会社ほど表れやすい傾向があります。社長が優秀な営業担当であるほど、社員に任せるより自分で動くほうが早く成果が出るためです。その結果、社長の手が空かず、仕組みづくりが後回しになります。
自社の状態は、この章の最後にあるチェックリストで確かめられます。
売上の増減が社長の稼働時間と連動している
1つ目のサインは、社長が忙しい月や体調を崩した月に、受注が目に見えて減ることです。社長の稼働が売上を決めている状態は、営業の面では自営業と同じです。
例えば、社長が展示会の準備に追われた翌月、新規の受注がゼロになる会社を実際に見かけます。社員は既存顧客の対応はできても、新規の商談を自分で進める手順を持っていません。
このサインが出ている会社は、社長の時間の使い方から見直します。社長の営業時間を週単位で減らしていく考え方は、経営者の営業時間配分の解説記事で詳しく紹介しています。
主要顧客が「社長だから買っている」状態になっている
2つ目のサインは、主要顧客が会社ではなく社長個人と取引している状態です。顧客から「社長が来るなら話を聞く」と言われるなら、このサインに該当します。
社長個人への信頼は、創業期の大きな武器です。一方で、社長が引退や病気で現場を離れると、顧客ごと失う危険があります。売上上位の顧客ほど、社長しか担当者の顔を知らないという会社も見かけます。
対策は、社長と社員の2人体制で顧客と接することです。顧客にとっても、相談できる窓口が増えるのは安心材料です。
社員に営業を任せても成果がばらつき、再現しない
3つ目のサインは、社員に営業を任せたときに、人によって成果が大きく違うことです。売れる社員と売れない社員の差を、本人の才能やセンスで説明していないでしょうか。
成果がばらつく原因の多くは、社員の能力より、売り方の手順がそろっていないことです。社長は感覚でできていても、その感覚を言葉にして渡していないためです。
成果の差は、個人の努力ではなく手順の差として扱うと改善できます。次の章で、手順をそろえる具体的な進め方を紹介します。
チェックリスト:自社の営業は自営業型のままか
まずは次の5項目で、自社の現状を確かめてください。
- 社長が商談に出られない月は、受注が減る
- 主要顧客の担当者の連絡先を、社長しか知らない
- 見積もりの金額を、社長が毎回決めている
- 社員ごとに受注率の差が大きい
- 営業のやり方を書いた資料が社内にない
2つ以上当てはまるなら、営業が自営業型のままの状態です。当てはまった項目は、次の章の5ステップのどこから着手するかの目安になります。例えば、連絡先を社長しか知らないならステップ2、受注率の差が大きいならステップ3から始めます。次の図は、印刷して営業会議で使える形にまとめたものです。
社長依存の営業を組織の仕組みに変える5ステップ
社長依存の営業を経営者型に変えるには、社長の頭の中にある勝ちパターンを外に出すことから始めます。書き出す、共有する、そろえる、引き継ぐ、回すの5ステップです。一度に全部を変える必要はなく、1つずつ進めます。
5ステップの順番には理由があります。手順を書き出さないまま顧客を引き継ぐと、社員は何を聞き、何を提案すればよいかわかりません。顧客情報が共有されていなければ、数字を確認しても原因を追えません。
目安として、ステップ1から4までは半年ほどかけて進めます。ステップ5は、仕組みが定着した後も続ける習慣です。
5つのステップの流れを、図で示します。
※ 期間は編集部が想定する目安です。会社の規模や顧客数に合わせて調整してください。
ステップ1:社長の営業プロセスを書き出す
最初の作業は、社長がふだん行っている営業の流れの書き出しです。見込み客の見つけ方、初回の連絡、訪問、提案、見積もり、受注後のフォローまでを順に並べます。
ポイントは、社長本人だけで書かないことです。社員が社長に質問し、社長が答えた内容を社員が書き取ると、社長が無意識にしている工夫が言葉になります。「なぜその場面でその質問をしたのか」まで聞き出してください。
書き出した内容は、そのまま営業の手順書の土台として使えます。手順書の作り方は、営業SOPの作り方の解説記事にまとめています。
ステップ2:顧客情報を社長の頭から共有台帳へ移す
次は、社長が個人で持つ顧客情報を、社員全員が見られる台帳へ移す工程です。台帳はExcelやスプレッドシートから始めても十分です。会社名、担当者、過去の取引、最後に会った日、次に会う予定を最低限の項目にします。
台帳に移すと、社長が不在でも誰が何をすべきかがわかります。顧客から問い合わせがあったときも、社員が経緯を踏まえて答えられます。
項目を増やしすぎると入力が続きません。最初は5〜10項目に絞り、全員が毎週更新することを優先しましょう。
ステップ3:ヒアリング項目と提案の型をそろえる
3つ目は、商談で顧客に聞く項目と、提案の流れを社内でそろえることです。ヒアリング項目とは、顧客の課題や予算、決める人などを確かめるための質問の一覧です。最初にそろえる項目の例は、次の6つです。
- 今いちばん困っていること
- その課題を放置した場合の影響
- いつまでに解決したいか
- 社内で最終的に決める人は誰か
- 想定している予算の範囲
- 過去に試した方法とその結果
項目は、社長が商談で自然に聞いている内容を書き出して決めると、現場で使いやすくなります。
聞く項目がそろうと、社員ごとの情報の抜けが減ります。社長が商談の報告を受けたときも、同じ基準で状況を判断できます。顧客にとっても、必要なことを最初に聞いてもらえるため、提案の的外れを防げます。
項目の作り方は、営業ヒアリングシートのテンプレート記事で詳しく紹介しています。
ステップ4:社長の担当顧客を段階的に引き継ぐ
4つ目は、社長が担当している顧客を社員に移すことです。いきなり担当を替えると、顧客が不安を感じて離れる危険があります。そのため、3段階で進めます。
最初は、社長の商談に社員が同行し、記録係を務めます。次に、社員が商談を進め、社長は同席して補足に回ります。最後に、社員が単独で担当し、社長は重要な節目だけ顔を出します。
3段階の引き継ぎの流れを、図で示します。
※ 期間は編集部が想定する目安です。売上の小さい顧客から始めると安全です。
引き継ぎは、売上の小さい顧客から始めるのが安全です。主要顧客の引き継ぎを計画的に進める方法は、社長の営業引き継ぎの解説記事で紹介しています。
ステップ5:週1回の数字確認で仕組みを回し続ける
最後は、仕組みが回っているかを週1回の数字で確かめることです。見る数字は、新規の商談数、提案数、受注数、台帳の更新状況などに絞ります。
数字を見る場では、個人を責めるのではなく、手順のどこで止まっているかを話し合います。例えば提案数は多いのに受注が少ないなら、提案の型を見直すべき合図です。
数字の確認は、30分程度の短い会議で十分です。毎週同じ曜日・同じ時間に開き、台帳の画面を全員で見ながら進めます。社長が出られない週も、営業責任者が進行役を務めれば止まりません。
仕組みは、一度つくって終わりではありません。週1回の確認を続けることで、型は少しずつ会社に合った形に育ちます。
想定例:営業担当3名の会社で半年かけて進める場合
5ステップの進め方のイメージとして、想定例を1つ示します。編集部による想定のモデルケースで、実在企業の成果ではありません。従業員20名、営業担当3名の部品商社で、主要顧客15社のうち12社を社長が担当しているとします。
この会社では、1〜2週目に社長の商談の流れを書き出し、3〜6週目に15社分の顧客情報を台帳へ移します。2か月目にヒアリング項目6つをそろえ、3〜6か月目に売上の小さい顧客から順に社員へ引き継ぎます。6か月後に、社長の担当を主要顧客の数社まで減らすのが目標です。
この例で大切なのは、社長が営業から完全に離れることではありません。社長は方針決めと重要な商談の支援に時間を移し、日々の商談は型に沿って社員が進めます。
自営業から法人化(法人成り)を考えるタイミング
法人化とは、個人事業を会社の形に切り替えることで、法人成りとも呼びます。検討の目安は、所得の増加、取引先の条件、採用の3つです。ただし、法人化しても営業の仕組みがなければ、会社は自営業型のままです。
法人化の判断は、税金だけで決めないことが大切です。法人化すると、社会保険料の会社負担、決算や登記の費用、経理の手間が新たに発生します。そのため、売上や所得の数字に加えて、事業をどこまで広げたいかという方針も判断材料です。
以下は、検討の目安と、法人化の前後で営業面から準備しておきたいことです。
(税金+社会保険料+事務費)
法人化を検討する主な目安:所得・取引先・採用
1つ目の目安は所得です。個人の所得税は累進課税のため、所得が増えるほど税率が上がります(国税庁 No.2260)。法人税との差がどこで逆転するかは、社会保険料なども含めて税理士と試算します。
2つ目は取引先の条件です。新規取引の条件として、法人であることを求める企業もあります。大手企業との取引を広げたい場合、法人格は営業上の入り口として機能します。
3つ目は採用です。社会保険が整っている会社は、求職者から見て安心材料と映ります。営業チームをつくるために人を採りたい段階は、法人化を考える自然なタイミングです。
法人化しても営業の仕組みがなければ自営業型のまま
ここで注意したいのは、法人化は「器」を変えるだけだという点です。法人化した翌日から、社員が自然に売れるようになるわけではありません。
「自営業は一度やったら会社員には戻れない」と語るYouTube動画も公開されています。自分の裁量で働く自由は、自営業の大きな魅力です。一方で、その自由を手放さないまま会社を大きくしようとすると、社長1人に負荷が集中します。
法人化と同時に、営業の型づくりと顧客情報の共有を始めることが、経営者への移行を早めます。器と中身を一緒に整える意識を持ちましょう。
まとめ|経営者の仕事は「売れる仕組み」を組織の財産にすること
自営業と経営者の違いは、働き方の区分と役割の2軸で分かれます。制度上は、税金・社会保険・責任の範囲・始め方に差が出ます。営業の面では、社長がいなくても売れるかどうかが分かれ目です。
本記事の要点は次の4つです。
- 自営業は「働き方の区分」、経営者は「役割」で、比べる軸が違う
- 法人の社長は統計上は自営業主ではなく、役員として雇用者に数えられる
- 営業を社長1人で抱えると、会社の成長は社長の時間に縛られる
- 書き出す・共有する・そろえる・引き継ぐ・回すの5ステップで仕組みに移す
社長のノウハウを組織の財産へ移すことが、自営業型から経営者型へ進む道筋です。まずは明日、社長が先週行った商談を1件選び、その流れを社員と一緒に書き出すところから始めてみてください。
よくある質問
Q1. 法人の社長は自営業にあたりますか?
統計や税金の区分では、法人の社長は自営業にあたりません。総務省の労働力調査では、会社の役員は雇用者に含めて数えます。ただし、営業や実務を社長1人が担っている場合、働き方の実態は自営業に近くなります。
Q2. 個人事業主と自営業は同じ意味ですか?
ほぼ同じ意味で使われますが、使う場面が違います。個人事業主は、開業届を出して個人で事業を営む人を指す税務上の呼び方です。自営業は、雇われずに自分で事業を営む働き方全般を指す言葉です。
Q3. 個人事業主でも経営者と名乗ってよいですか?
名乗ること自体に法的な制限はありません。事業の方針を決め、人やお金を動かしていれば、役割としては経営者です。名刺では「屋号+代表」と表記する例が多く見られます。
Q4. 社長が営業から離れると売上が落ちませんか?
一度に離れると落ちる危険があります。営業プロセスの書き出し、顧客情報の共有、同行での引き継ぎを段階的に進めると、売上を保ちながら移行できます。まずは売上の小さい顧客の引き継ぎから始めてください。
Q5. 従業員が数名でも営業の仕組み化は必要ですか?
従業員が数名の段階こそ、仕組み化を始めやすい時期です。顧客や手順が少ないうちに型をつくると、人が増えたときにそのまま教えられます。顧客台帳とヒアリング項目の2つから始めると、負担を抑えられます。

