
「ITを売るな、人を売れ」創業7年で120名組織を築いた経営者が語る、AI時代の営業論
「結局、何を買うかって言ったら人を買う。何を売っているかといったら人を売る」——
こう断言するのは、SUN株式会社 代表取締役の仲宗根俊平氏だ。創業から7年で120名規模の組織に成長させた同氏が、今回プルデンシャル生命 東京第六支社 エグゼクティブライフプランナー・香川氏との対談で明かしたのは、離職率を劇的に改善した3ヶ月研修の真髄、ChatGPTを活用した「30の質問」によるニーズ喚起術、そして産休・育休復帰率100%を実現する組織文化。営業組織の構築に悩む経営者必見の実践的知見が、ここにある。
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「世界と繋がりたい」——光通信出身の起業家が描いた夢
仲宗根氏の起業のきっかけは、意外にも「特別高い起業意識」ではなかった。新卒で光通信に入社し、医療保険の営業を2年間経験。その後も営業一筋でキャリアを積み、「満足した人生を送ってきた」と語る。
しかし、心の奥底には幼少期の3年間をアメリカで過ごした経験が深く刻まれていた。海外営業部で世界を飛び回る父の背中を見て育った仲宗根氏は、「海外の国と繋がる、海外の人と繋がる」という思いをずっと抱き続けていたのだ。
2018年8月、その想いを形にするためSUN株式会社を設立。システムインテグレーション事業を軸に、日本語教育事業、インバウンド事業へと事業を展開。今では国内6拠点に加え、バングラデシュにも拠点を構えるまでに成長している。
「人と人を繋ぐ」——この理念こそが、同社の全ての原点だ。
「うちはIT会社でIT商材を扱っていますけど、結局何を買うかって言ったら人を買う、何を売っているかといったら人を売る。これはもう私のベースです」
実際、バングラデシュ進出も「人との出会い」がきっかけだったという。当初は「どこだよそこ」というレベルの関心しかなかったが、素晴らしい人物との出会いによって、今では重要な拠点となっている。
数字を伸ばす営業は「誰と話しているか」を見ている
香川:営業で成果を出す人と出さない人の差は、どこにあるとお考えですか。
営業組織を率いる経営者として、仲宗根氏の答えは明快だった。
「立場によって多少違いますが、1営業職としての話をするならば、誰と話しているんだということです」
同社で数字が伸びている営業マンに共通するのは、人と人のことを理解し、人のヒアリング、ニーズをしっかり理解していることだという。一方、成績が伸び悩む営業マンは、プロジェクトや開発環境といった「案件」を見ている傾向があるという。
「それが軸でないと、その次のステップには繋がりません。継続率も、1案件あたりの営業利益率も、全てやっぱり人がベースになる。そうでないと数字も繋がってこない」
この哲学は、同社の営業スタイルにも色濃く反映されている。120名の社員のうち、営業職はわずか10名。年間売上の8割は既存顧客からの継続案件だ。新規開拓は仲宗根氏自らが担当することも多い。
「営業部に関しては、実は大半が既存顧客。新規に関しては結構私が多かったりします」
そして彼の新規開拓のスタイルは、徹底的に「人」に焦点を当てたものだ。
「出会いたいと思った地域、人、会社があったら行く。今の時代、オンラインで確かに打ち合わせできますけど、人と話したいとか、この会社とは繋がりたいと思ったら行きます」
実際、今年7月には新潟県の佐渡ヶ島に新オフィスを開設。当初はインバウンドビジネスを目的としていたが、そこから派生して地元企業との取引も生まれている。

離職率急増の危機を救った「3ヶ月研修」の真髄
「2年、3年前に離職率がちょっと高くなっちゃったんですよ」
仲宗根氏が明かすのは、急成長企業が必ずぶつかる壁——人材の定着問題だ。営業職、エンジニア職ともに離職率が上昇。危機感を抱いた同社が徹底的に分析した結果、浮かび上がってきたのは「人との深さ、人と人との信頼関係、心の部分が欠けている」という課題だった。
そこで導入したのが、新入社員に対する3ヶ月間の研修制度だ。
ただし、この研修の目的は知識習得や営業手法の教育だけではない。最も重視しているのは「俺たちはあなたをちゃんと見ている」というメッセージを伝え、新入社員の想いを受け止めることだという。
「人によっては2ヶ月で終わるメンバーもいますが、2〜3ヶ月はその人のマインド、その考え方に注力してやっています」
結果は明白だった。研修制度の導入からまだ1年だが、離職率は明らかに下がっている。
香川:やはりコミュニケーションを取る大切さを、研修を通じて深く浸透させていらっしゃるのですね。
「ただリアルじゃなくてオンラインなんですけどね」と仲宗根氏は笑うが、オンラインであっても「人」に焦点を当てた研修は効果を発揮している。
社員が社長を審査する「アイデアコンテスト」の仕掛け
離職率改善のもう一つの鍵となっているのが、社員主導の「アイデアコンテスト」だ。
このコンテストのユニークな点は、役員が一切関与しないこと。全社員が自由にテーマを設定してアイデアを募集し、まずは社員だけが投票する。その上位3〜5チームが最終審査で仲宗根氏にプレゼンし、優勝チームには賞金と開発リソースが与えられる。
「逆にちょっとドキドキするんですけどね。0とか1チームだったらどうしようって」
仲宗根氏は率直に不安を口にするが、これまで3回の開催で毎回8〜10チーム、関わるメンバーは30〜40人に上る。
特に効果的なのは、拠点を超えたチーム編成だ。同社は国内6拠点に分散しており、日常業務では話す機会が限られる。しかしこのコンテストを通じて、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の社員が混成チームを組み、新たなコミュニティが生まれている。
「業務外でやるので、そこはちょっとタフさは必要になりますが(笑)でも、事業部外のメンバーとチームを組んだり、拠点間の繋がりができたり、これが一番良かったですね」
実際にコンテストから生まれた社内ツールが、社員同士のコミュニケーションプラットフォームとして機能している例もある。
産休・育休復帰率100%を支える「安心感」の正体
香川:産休・育休を取得された方が、また戻ってきたいと思える会社づくりについて、お聞かせいただけますでしょうか。
多くの企業が頭を悩ませる女性社員の離職問題。しかしSUNでは、産休・育休取得者の復帰率は100%だ。
「わくわく感よりも、しっかりサポートしているからという安心感の方が強いんじゃないかな」
仲宗根氏は、妊娠が判明したタイミングから出産、産休まで、一貫したサポート体制を敷いている。ただし、特別な福利厚生制度があるわけではない。
「シックリーブ(病気休暇)ぐらいありますけど、それ以外特別なものはないです。普通に日本の法律に則ってやっているだけ」
それでも100%の復帰率を誇る理由は、働き方の多様性を認める文化にある。
子供の年齢、結婚したばかりか、介護をしているか、在宅の方がモチベーションが上がるか——社員それぞれの状況に応じて、柔軟に働き方を選択できる環境を整えている。
「強制的に全員オフィス出社とか、何時から何時まで働けとかはあんまりしていません」
在宅勤務が主流の同社だが、「週2回は出社」というメンバーもいれば、ほぼ在宅のメンバーもいる。大切なのは、一律のルールではなく、一人一人の状況に合わせた柔軟性なのだ。

モチベーションは「水曜の飲み会」と「ソフトバンク観戦」から生まれる
香川:社員の方々のモチベーション維持について、何か意識されていることはございますか。
「やっぱり一人一人ですね」——仲宗根氏の答えは、ここでも「人」に焦点が当たる。
例えば、水曜日は飲み好きな社員が集まって飲み会を開催する。ゲーム好きはゲーム仲間と集まり、福岡拠点ではソフトバンクファンが一緒に観戦に行く。
「こうした趣味や関心事を軸にした個別の繋がりこそが、モチベーション維持の鍵だという。
「人間関係構築っていうところまで考えてないと思うんです。ただ同じ社員だし、なんか遊ぼうよっていうフランクな感覚の繋がりが、会社に入って維持できてるモチベーションの部分になっているのかなと」
一方で、評価制度はシビアだ。
営業部門に関しては、光通信出身らしく、半期ごとの評価は徹底的に数字で行う。「結果、数字だと。これはもうブラしちゃいけない部分」と断言する。
ただし、仲宗根氏や営業責任者が社員に求めるのは、数字や給与の話ではない。
「なぜ今この営業をやっているのか、その先に何があるのか——数字では可視化できない部分を多く話しています」
数字で評価し、人で繋がる。このバランスが、同社の営業組織を支えている。
ChatGPTで準備、現場は人間——AI時代のニーズ喚起術
対談の終盤、仲宗根氏が強調したのが「ニーズ喚起」の重要性だ。
「ニーズ喚起とヒアリングを間違っている営業マン、非常に多いですね。ヒアリングすることは誰でもできる。その中のニーズは何なんだ、お客様が求めることはどこにあるのか——ここまでできている営業マンは本当に少ない」
営業の手法でニーズ喚起を抜けば、提案もクロージングもできない。では、どうすればニーズを引き出せるのか。
香川:具体的にはどのようにニーズ喚起を実践されているのでしょうか。
「今年、佐渡のお客さんのところに初めてお邪魔したときに、私は一切営業をやりませんでした」
弊社の説明は最低限。それ以外は、お客様のことについての質問を30個ぐらい用意して、ひたすら聞きまくったという。
「相手に『私たちのことをここまで話したのは実は初めてです』と言わせた。この瞬間、お客様の本音を引き出せたと確信しました」
この30の質問、実はChatGPTで準備しているという。
「質問を考えてくれるのはChatGPTに任せて、あとどう現場で伝えるかは人間がやればいい。硬いパターン、柔らかいパターンとか、いろんなタイプを複数準備しておいて、このタイプだなと判断して、あとは引き出すだけです」
香川:質問をAIに任せるというのは、多くの営業担当者にとって実践しやすい手法かもしれませんね。
「そうです。相手のことをちゃんと事前に調べながら、何個か質問を用意する。あとはお客さんとの呼吸のタイミングは経験するしかない。準備はChatGPT、現場は人間というスタイルです」
仲宗根氏は「週に4回は新しいAIツールを使っている」というヘビーユーザーだ。この3ヶ月間でも、追いつかないほど新ツールが登場しているという。
「何がいいか悪いかは、やっぱり使ってみないとわからない。使ってなんぼです」
しかし彼は、AIが営業マンを代替するとは考えていない。
「ネット社会でChatGPTができて、営業マンはなくなるんじゃないかという議論がありますけど、私はなくならないと思います。
AIを使いこなせない営業マンは淘汰される。しかし、AIを使いこなした上で人間的な対話ができる営業マンは、これまで以上に価値を発揮する——これが仲宗根氏の見立てだ。

世界を見て気づいた「日本が好き」という原点
対談の最後、仲宗根氏が今後の展望として語ったのは、二つの軸だった。
一つは、日本の社会問題に対するITでのアプローチ。少子化、人手不足——人の手だけでは解決不可能な課題に、もっとアクセルを踏んでチャレンジしていくという。
もう一つは、日本をグローバルなオフショア拠点にするという野心的な構想だ。
「日本の賃金が欧米諸国に追いつくのは不可能だと思っています。良い悪いは置いといて。でも日本の技術、ソフトウェアの技術、エンジニアの技術は世界に負けないし、質は高い。だから世界のプロジェクトを日本に持ってくるスキームを作りたい」
特にアメリカ市場への挑戦を視野に入れている。トランプ政権下で製造業がアメリカ本土に回帰すれば、ソフトウェア開発のニーズも高まる。その時、インドやメキシコと並んで「ジャパンはどうなんだ」と提案できる準備を進めているという。
香川:そこまで日本の社会問題に向き合えるエネルギーは、どこから来るのでしょうか。
「去年一昨年、結構世界を見てきました。いろんな国を見て聞いて、結論——改めて日本が大好きなんだと気付かされました」
世界と比べると、日本は当たり前のように綺麗で、人のために何かをすることが自然にできる国だという。安心、安全も段違いだ。
「だからこそ日本の少子化社会の中で、ITができることは山ほどある。今後の未来の子供たちにとっても必要なことをやっていきたい」
光通信で医療保険を売り、バングラデシュに拠点を構え、佐渡ヶ島で新規開拓をする——一見バラバラに見える行動の全てが、「世界と繋がりたい」「日本を良くしたい」という一本の軸で貫かれている。
まとめ:「人を売る」という原点が、全ての答えだった
「ITを売っているのではなく、人を売っている」——仲宗根氏のこの言葉が、対談全体を貫くテーマだった。
離職率改善のための3ヶ月研修も、社員主導のアイデアコンテストも、産休・育休復帰率100%も、全ては「人を大切にする」という一貫した哲学から生まれている。
そして今、AI時代を迎えた営業の世界で、仲宗根氏が示すのは「準備はAI、現場は人間」という明確な役割分担だ。ChatGPTに30の質問を準備させ、現場では相手の反応を見ながら柔軟に対応する。この手法は、ニーズ喚起に悩む多くの営業担当者にとって、今日から実践できる具体的なヒントとなるだろう。
「逆に僕らの10個上とか、全然AI使わないじゃないですか。そういう人たちをどう思うか? どうぞ引退してください。任せてください」
仲宗根氏の言葉は厳しいが、それは次世代への期待の裏返しでもある。
AIを使いこなし、人間的な対話を大切にし、社員一人一人と向き合う。この三つを実践できる営業組織こそが、これからの時代に求められる姿なのだ。
営業組織の構築に悩む経営者の皆様にとって、「人を売る」という原点に立ち返ることが、最大のヒントになるかもしれない。
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プロフィール

ゲスト
SUN株式会社
代表取締役 仲宗根俊平氏
新卒で光通信入社後、医療保険の営業を2年間経験。その後も営業一筋でキャリアを積み、2018年にSUN株式会社を設立。システムインテグレーション事業を軸に、日本語教育事業、インバウンド事業など多角的に展開。創業7年で120名規模に成長させる。「人と人を繋ぐ」を理念に、国内6拠点に加えバングラデシュにも拠点を構える。
インタビュアー
プルデンシャル生命保険株式会社
東京第六支社 エグゼクティブライフプランナー 香川氏
不動産業界での経験を経て27歳でプルデンシャル生命に入社、現在17年目。不動産マーケットでの独自のコンサルティングスタイルを確立後、現在は経営者マーケットを中心に活動。不動産とファイナンシャルプランニングを融合した「日本一のFPチーム」作りを目指し、14年間毎週勉強会を開催。チームメンバーは33名。

